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広島地方裁判所尾道支部 昭和48年(ワ)56号 判決

原告

箱崎静男

ほか二名

被告

箱崎邦洋

ほか三名

主文

1  被告箱崎邦洋は、原告箱崎静男に対し金一一一万三、一九九円、原告箱崎正基に対し金八二万四、〇〇〇円、原告箱崎シズコに対し金一〇五万〇、五〇〇円及びこれらに対する昭和四五年五月三〇日から完済まで各年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らの被告箱崎邦洋に対するその余の請求及び被告箱崎渉、同箱崎梅代、同山根覚に対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、原告らと被告箱崎邦洋との間においては、原告らに生じた費用の五分の一を被告箱崎邦洋の負担とし、その余を各自の負担とし、原告らと被告箱崎渉、同箱崎梅代、同山根覚との間においては全部原告らの連帯負担とする。

4  原告らが各金二〇万円の担保を供するときは、1項に限り仮に執行することができる。

事実

(請求の趣旨)

被告らは、各自、原告箱崎静男に対し金一、五二五万六、三一一円、原告箱崎正基に対し金四〇八万八、八〇〇円、原告箱崎シズコに対し金二六六万〇、六〇〇円及びこれらに対する昭和四五年五月三〇日から完済まで各年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

(請求の趣旨に対する答弁)

一  被告ら

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

二  被告箱崎邦洋、同箱崎渉、同山根覚

敗訴の場合仮執行免脱の宣言を求める。

(請求の原因)

第一事故の発生

一  昭和四五年五月三〇日午後三時二五分ごろ因島市重井町小田野浦昭和動熱前路上において、被告箱崎邦洋が運転し原告箱崎静男がその後部補助席に同乗する自動二輪車(以下原告車という。)と被告箱崎梅代が運転する軽四輪貨物自動車(以下被告車という。)とが衝突した。

二  原告静男は、右事故により頭蓋骨骨折、脳挫傷、下顎骨骨折、左上腕開放性骨折、左眼眼球消失(失明)の傷害を負つた。

第二被告らの責任

一  被告邦洋

被告邦洋は、幅員七・七メートルの道路において先行の被告車を右側から追越すにあたり、その動静を注視し、その速度、進路及び道路状況に応じた安全な速度、方法及び間隔を保つて進行すべき注意義務があるのに、これを怠つて時速六〇キロメートルを超える速度で進行した過失により、原告車を右折しようとしていた被告車に衝突させた。

よつて、被告邦洋は民法七〇九条に基づき、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

二  被告梅代

本件事故現場道路は直線状であり、被告梅代は、右折しようとする際、後方を注視し、追従進行してくる原告車の時速六〇キロメートルを超える猛速度と方向を確認していたものであるから、被告梅代は、原告車を先に追越させて然るのち右折すべき注意義務があるのに、これを怠り、慢然と右折した過失により、被告車を原告車に衝突させた。

よつて、被告梅代は民法七〇九条に基づき、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

三  被告山根覚、同箱崎渉

(一) 被告覚は、原告車を所有し、これを本件事故発生の当日、知人である被告渉に使用目的を因島市重井町方面へ行くこととし、貸与期間を被告覚が工場から帰途につく午後四時前までと約して無償で貸与した。

(二) 被告渉は、本件事故当日被告覚から借受けた原告車を、知人友人である被告邦洋に対し、右と同様の使用目的と使用期間で無償貸与した。

(三) 以上の事実によれば、本件事故当時、被告渉は原告車に対する運行支配を有しており、被告覚も被告渉を介して原告車に対する運行支配を有していたから、いずれも、自賠法三条に基づき原告車の運行供用者として原告らの記期損害を賠償すべき責任がある。

第三損害

一  原告静男の損害

(一) 逸失利益 金一、〇八二万一、三一一円

1 原告静男は、本件事故当時、因島市重井町鉄工業団地臨海工業株式会社内の下請負業者である瀬戸田工業こと藤木秀司の従業員として稼働していた。

2 本件事故当時、原告静男は、瀬戸田工業から年間金八〇万五、〇〇〇円(年二回の賞与金一一万五、〇〇〇円を含む。)の収入を得ていた。

3 同原告は、昭和二六年四月一三日生の健康な男子であり、今後六〇歳まで四一年間稼働することができたはずであるのに、本件事故により労働能力を全部喪失し、その間の収入を得ることができなくなつたところ、ホフマン式計算法で年五分の割合による中間利息を控除した右収入の現価は金一、〇八二万一、三一一円である。

(二) 慰謝料 金四〇〇万円

原告静男は、本件事故による受傷のため、昭和四五年五月三〇日から同年八月三一日まで日立造船健康保険組合因島病院に入院し、同年九月一日より同年一〇月一五日まで中国労災病院に入院し、同年一一月一六日より因島病院に入院して治療を受けているが、左眼失明、右半身不全マヒ、失語症、外傷性てんかん等が残り、あたら春秋に富んだ一生を病床に呻吟する身となり、はかり知れない精神的苦痛を負つたのであり、これに対する慰謝料の額は金四〇〇万円が相当である。

(三) 弁護士費用 金二〇万円

原告静男は、原告訴訟代理人に本訴の提起を委任し、日弁連の「報酬基準規則」により着手金及び成功報酬を支払うことを約したところ、その額は金二〇万円を上廻る。

(四) 入院雑費 金八万円

原告静男は、昭和四五年五月三〇日から昭和四六年四月五日まで三一〇日間入院し、その間当初の一八〇日間は一日三〇〇円、その後の一三〇日間は一日二〇〇円の割合で合計金八万円の入院雑費を要した。

(五) 入、退院時の交通費 金九万円

原告静男は、入、退院のためタクシーや救急車を利用、金九万円の費用を要した。

(六) 医師看護婦に対する謝礼 金六万五、〇〇〇円

(七) 原告静男の損害合計 金一、五二五万六、三一一円

二  原告正基の損害

(一) 付添費 金三八万八、八〇〇円

原告正基は、原告シズコとともに本件事故の日から昭和四五年一二月三一日まで病院につききりで原告静男の看護に当つたところ、一日の付添料は金一、八〇〇円が相当であるから、その二一六日分の金三八万八、〇〇〇円の損害を受けた。

(二) 企業損害 金一七〇万円

原告正基は、漁船二隻を所有して漁業を営んでいたが、原告静男の付添看護のため昭和四五年五月三〇日から一ケ年間営業を断念せざるを得なかつた。

漁業の一ケ年間の総水揚高は金三〇〇万円(一ケ月金二五万円)であり、諸経費金一三〇万円(油代三〇万円、純損耗費七〇万円、船舶機械消却費二〇万円、その他の消耗費一〇万円)を控除した純収入は金一七〇万円であり、原告正基は右収入を得ることができなかつた。

(三) 慰謝料 金二〇〇万円

原告正基は、原告静男の父であり、原告静男が前記の如き傷害を受けたことにより、同原告の生命を害された場合にも比肩すべきか又は右場合に比して著しく劣らない程度の甚しい精神的苦痛を受けたところ、これに対する慰謝料の額は金二〇〇万円が相当である。

(四) 原告正基の損害合計金四〇八万八、八〇〇円

三  原告シズコの損害

(一) 付添費 金六六万〇、六〇〇円

原告シズコは、昭和四五年五月三〇日から昭和四六年五月三一日まで三六七日間原告静男の付添看護に当つたところ、一日の付添料は金一、八〇〇円が相当であるから、金六六万〇、六〇〇円の損害を受けた。

(二) 慰謝料 金二〇〇万円

原告シズコは、原告静男の母であり、原告正基と同様の精神的苦痛を受けたところ、これに対する慰謝料の額は金二〇〇万円が相当である。

(三) 原告シズコの損害合計金二六六万〇、六〇〇円

第四結論

よつて原告らは被告らに対し、各自請求の趣旨一項のとおり損害賠償金及びこれらに対する本件事故の日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する認否)

第一被告箱崎邦洋、同山根覚、同箱崎渉

一  第一の一を認める。

第一の二を認める。

二  第二の一を争う。本件事故現場道路は幅員約五・五メートルで直線状をしており、速度制限、追越禁止等の交通規制のないところである。被告邦洋は、原告車を運転して時速六〇キロメートルで北進し、道路左端を先行する被告車に追いつきこれを追越すため並進状態になつたとき、被告梅代が、非交差点であるのに右折合図をせず、右側ないし右後方の安全を確認しないまま急に右折したため、被告邦洋は回避措置をとる余地なく被告車と衝突したものであつて、右衝突は不可抗力によるものであり、被告邦洋に過失はない。

三  第三の一の(一)の1を認め、同2、3を否認する。原告静男は、一ケ月に一週間程度就労していたにすぎない。

第三の一の(二)ないし(六)を争う。

第三の二の(一)は不知、同(二)のうち原告正基が漁業者であることは認めるが、その余は否認する。原告正基の昭和四四年度の事業所得申告額は金二五万円にすぎない。同(三)を争う。

四  第三の三の(一)(二)を争う。

第二被告箱崎邦洋、同山根覚

第二の三を争う。被告覚は、本件事故当日、原告静男の依頼で、原告車を同原告に貸与したところ、同原告は、同車を自己の都合のために被告邦洋にこれを運転させてその後部荷台に同乗していたものであるから、同原告は、自賠法三条にいう第三者に該当しない。

第三被告箱崎渉

第二の三を争う。原告静男と被告渉とは、原告車を被告山根覚から共同で借受けて、これを被告邦洋に共同で貸与したものであるから、原告静男が右貸与につき極力反対するとかの特段の事情のない限り、原告静男と被告渉とは原告車の共同運行供用者の関係にあり、原告静男は被告渉との関係では自賠法三条にいう第三者に該当しない。

第四被告箱崎梅代

一  第一の一を認める。

二  第一の二は不知。

三  第二の二を争う。本件事故は、被告邦洋が原告車を制限速度を超えた高速で運転し道路右側部分を暴走したために発生したものであつて、被告梅代に過失はない。

四  第三のうち、原告らの身分関係を認め、その余を否認する。

(抗弁)

被告ら

原告静男は、自賠責保険金一、〇七九万六、〇七一円を受領している。

(抗弁に対する認否)

認める。

(証拠)〔略〕

理由

第一事故の発生

一  請求の原因第一の一の事実は当事者間に争いがない。

二  請求の原因第一の二の事実は、原告と被告梅代を除くその余の被告らとの間に争いがなく、原告と被告梅代との間では、原告正基本人尋問の結果(一回)によつて成立の認められる甲六号証によつて認められる。

第二被告らの責任

一  被告邦洋の責任

(一)  成立に争いない甲一一号証の一、二、同一三、一五号証、乙(イ)一号証の一、二、証人宮谷英作の証言及び被告箱崎梅代本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、成立に争いない甲一二号証の一、二及び被告箱崎邦洋本人尋問の結果中右認定に反する部分は、右証拠に照して採用できない。

1 本件事故現場は南北に通ずる幅員約七・七メートルのアスフアルト舗装道路で、衝突地点の南方約四〇メートルのあたりは西方へカーブし、衝突地点付近は、東方からの道路とT字型に交わる交差点となつている。

2 被告梅代は、被告車を運転して南(因島市中庄町方面)から北(同市重井町方面)へ向け時速三〇キロメートルくらいで進行中、右交差点で東方道路へ右折するため、右のカーブ地点付近で右折のウインカーを点灯し、減速しながら道路中央線に寄り、交差点の手前で右サイドミラーによつて右後方から進行する車両のないことを確認したうえ、徐行しつつ交差点にはいつて右折にかかつたところ、被告邦洋運転の原告車が、時速六〇キロメートルを超える速さで北進し、中央線を超えて被告車の右側(東側)を追越そうとしたため、被告車の先端が中央線から約一メートル東側へ進出した地点で、被告車の右前部に原告車が接触して転倒した。

(二)  右認定事実からすれば、被告梅代は道路交通法の規定する右折方法(同法三四条二項、五三条一項)をとつていたものであり、被告邦洋は、すでに事故現場手前のカーブ地点付近から道路の幅員等を考慮して速度を適宜調節し、被告車の動静を注視して、その速度、進路、道路状況に応じた安全な速度と方法で進行すべき注意義務があるというべきであるのに、これを怠つて、高速で進行したために本件事故を発生させたものであるから、被告邦洋には過失があり、不法行為責任を負うべきことは明らかである。

なお被告邦洋は、原告静男が自賠法三条にいう他人に該らないと主張するけれども、原告らは同被告に対しては不法行為責任を問うているのであるから、右は無益な主張に帰する。

二  被告梅代の責任

前項で認定したとおり、被告梅代は法規に従つた右折方法をとつていたのであり、同被告が右折の際に原告主張の如くに原告車を認識していたと認めることのできる証拠はないから、他に特別の事情の主張立証がない限り、被告梅代に、いまだ後続車が原告車のように高速で中央線を超えて進行してくることを予想し、これを先に追越させて然るのち右折すべき注意義務があるというに足りない。従つて、本件事故について被告梅代に不法行為責任の成立を認めることはできない。

三  被告覚、同渉の責任

(一)  被告箱崎渉、同山根覚、同箱崎邦洋各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

1 昭和四五年五月三〇日午後、遊び友達である原告静男と被告渉とは、因島市重井町方面へ二輪車で出かけようと話合い、排気量七五〇ccの大型自動二輪車である原告車を所存する被告覚を両名で訪ね、主に原告静男が交渉に当つたすえ、運転免許を持つ被告渉が借主となつて、当日午後四時前には返還する約束で、原告車を借受けた。

2 そして、右両名は先ず原告車に乗つて同市土生町因島温泉前に行つたところ、そこに四、五名の遊び仲間がおり、やがて被告邦洋も来合わせて、ここで、全員が同市重井町へ鯉を見に行くこととなつた。そこで、被告邦洋は、被告渉に原告車を運転させてくれるよう頼み、被告渉はこれを承諾し、そばに立つていた原告静男もこれに格別反対したりはせず、被告邦洋の運転する原告車の後部補助席に同乗し、被告渉及び他の四、五名の者は普通乗用車に乗つて、相前後して出発したが、目的地への途中で本件事故が発生した。

(二)  右認定事実からすれば、原告静男は、原告車を実質的には被告渉と共同で被告覚から借受け、さらにこれを共同で被告邦洋に運転させたものであつて、原告静男自身、本件事故当時に原告車に対する運行支配を有しており、同原告も原告車の運行供用者の地位にあつたというべく、従つて同原告は自賠法三条にいう「他人」にあたらないというべきである。

そうすると、被告覚、同渉が自賠法三条に基づく損害賠償義務を負うということはできない。

第三損害

一  原告静男の損害

(一)  逸失利益 金八五九万〇、二七〇円

原告箱崎正基本人尋問の結果(一回)とこれによつて成立の認められる甲八号証、被告箱崎邦洋本人尋問の結果とこれによつて成立の認められる乙(ロ)四号証、成立に争いない甲一七号証によれば、原告静男は本件事故当時、瀬戸田工業こと藤木秀司に雇用されて(この事実は原告らと被告邦洋との間に争いがない。)、日給金二、三〇〇円と年間賞与一一万五、〇〇〇円を得ていたけれども、その稼働状況は不良で、一ケ月にせいぜい一〇日間程度出勤していただけであつたこと、原告静男は昭和二六年四月一三日生の健康な男子であつたから、今後六〇歳に達するまで四一年間稼働することができたはずであるところ、本件受傷によつて労働能力を全く喪失し、その間の収入を得ることができなくなつたことが認められるところ、ホフマン式計算法で年五分の割合による中間利息を控除した右収入の現価は金八五九万〇、二七〇円である。

(2,300×10×12+115,000)×21.97=8,590,270

(二)  慰謝料 金三〇〇万円

甲一七号証及び原告正基本人尋問の結果(一、二回)によれば、請求の原因第三の一の(二)の事実が認められるところ、原告静男の精神的苦痛に対する慰謝料の額は金三〇〇万円が相当である。

(三)  弁護士費用 金二〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告静男は弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起を委任し、金二〇万円を下らない着手金及び報酬金の支払を約したことが認められるところ、本訴訟の難易、請求認容額その他諸般の事情を考慮すると、右金額も原告の損害と認めるのが相当である。

(四)  入院雑費 金八万円

原告静男は、前認定のとおり入院治療を受け、その日数は三一〇日を下らないところ、その間金八万円を下らない入院雑費を要したことは、経験則上明らかである。

(五)  入退院時の交通費

原告静男が中国労災病院の入退院に際し、交通費を支出したことは推認されるが、その金額を確定することのできる証拠は何もない。

(六)  医師看護婦に対する謝礼 金三万九、〇〇〇円

原告正基本人尋問の結果(一回)によれば、原告静男は、入院先の医師に対し診療に対する謝礼として金三万九、〇〇〇円相当の物品を贈つたことが認められるところ、右も本件事故に基づく損害と認めるのが相当である。

(七)  損害填補 金一、〇七九万六、〇七一円

原告静男が自賠責保険金一、〇七九万六、〇七一円を受領したことは当事者間に争いがない。

(八)  損害額合計 金一一一万三、一九九円

右(一)(二)(三)(四)(六)の合計額から右(七)の額を控除すれば、原告静男の損害額は金一一一万三、一九九円となる。

二  原告正基の損害

(一)  付添費 金三二万四、〇〇〇円

甲六、一七号証、原告正基本人尋問の結果によれば、原告静男は、入院中その重篤な症状から常時付添看護を必要とし、事故当日から少くとも昭和四五年一二月三一日まで二一六日間父である原告正基が母である原告シズコと共に付添看護をせざるを得なかつたことが認められるところ、原告正基がこれについやした労務は、同原告が本件事故によつて受けた損害であると解すべきである。そして、付添費用として一日金一、五〇〇円程度要することは公知の事実であるから、原告正基は金三二万四、〇〇〇円の損害を受けたこととなる。

1,500×216=324,000

(二)  企業損害

原告正基が漁業者であることは当事者間に争いがなく、原告正基本人尋問の結果(一回)によれば、同原告は、本件事故当日から少くとも昭和四五年一二月三一日まで原告静男の付添看護にあたつたため漁業に従事できなかつたことが認められる(なお、同原告は昭和四六年一月一日以降も漁業に従事しなかつたと供述するけれども、仮にそれが事実としても、本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。)。けれども、漁業に従事することによる収益は労働によつてもたらされるものであるから、前項の付添費損害と重複する範囲では、同原告の主張はそれ自体理由がない。

なお、原告正基は、漁業収入として年間金一三〇万円の純収益を得ていたと主張し、原告正基本人尋問の結果(一回)中にはこれに添う部分があるけれども、同尋問の結果中他の部分とも比照するとき、右供述部分は採用するに足りず、他に同原告が前項の付添費を超える収益をあげていたことを認めることのできる証拠はない。

(三)  慰謝料 金五〇万円

前記の原告静男の慰謝料損害の項で認定した事実及び原告正基本人尋問の結果(一回)によれば、原告正基は、子である原告静男の受傷によつて、同原告の生命を害された場合に比して著しく劣らない程度の大きな精神的苦痛を受けたことが認められるところ、原告静男自身の慰謝料額その他諸般の事情を考慮すれば、これに対する慰謝料の額は金五〇万円が相当である。

(四)  損害額合計 金八二万四、〇〇〇円

三  原告シズコの損害

(一)  付添費 金五五万〇、五〇〇円

甲九、一七号証、原告正基本人尋問の結果によれば、原告静男の母である原告シズコは、前記原告正基の付添費損害の項で判示したのと同様の事情で、本件事故当日から少くとも昭和四六年五月三一日まで三六七日間原告静男の付添看護をせざるを得なかつたことが認められるところ、右同項で判示と同様の理由で、同原告は金五五万〇、五〇〇円の損害を受けたこととなる。

1,500×367=550,500

(二)  慰謝料 金五〇万円

前記の原告静男の慰謝料損害の項で認定した事実及び原告正基本人尋問の結果(一、二回)によれば、前記の原告正基の慰謝料損害の項で判示したのと同様に、原告シズコの慰謝料は金五〇万円が相当である。

(三)  損害額合計 金一〇五万〇、五〇〇円

第四結論

以上によれば、原告らの本訴請求中、被告箱崎渉、同箱崎梅代、同山根覚に対する請求はすべて理由がなく、被告箱崎邦洋に対する請求のうち、原告静男については金一一一万三、一九九円、原告正基については金八二万四、〇〇〇円、原告シズコについては金一〇五万〇、五〇〇円及びこれらに対する昭和四五年五月三〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるが、その余は理由がない。

よつて、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用し、なお仮執行免脱の宣言は、相当でないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 仲渡衛)

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